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福岡地方裁判所 平成4年(行ウ)16号 判決

原告

二代目工藤連合草野一家

右代表者総長

溝下秀男

右訴訟代理人弁護士

南出喜久治

被告

福岡県公安委員会

右代表者委員長

喜多村禎勇

右訴訟代理人弁護士

三ツ角直正

石橋英之

右指定代理人

山元裕史

外一〇名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、平成四年六月二六日、暴力団による不当な行為の防止等に関する法律第三条に基づいてなした原告を指定暴力団として指定する旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、被告が、平成四年六月二六日、原告を暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年五月一五日法律第七七号、以下「暴対法」又は「法」という。)三条の規定する暴力団(以下「指定暴力団」という。)として指定する処分(以下「本件指定処分」という。)をしたのに対し、原告において、暴対法の立法目的、立法体系、立法過程、各条項等が憲法二一条等に違反し、関係法令の制定・運用、本件指定処分に至る手続き等が違法であり、指定要件も欠缺しているなどと主張して、本件指定処分の取消しを求めた事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  原告二代目工藤連合草野一家(以下「草野一家」という場合がある。)は肩書地に本拠を置いており、被告から平成四年六月二六日、暴対法三条の規定により本件指定処分を受けたが、同処分を不服として、同年八月三日同法二六条に基づき国家公安委員会に審査請求をしたところ、同委員会は、同年一〇月二九日、その請求を棄却する旨の裁決をなした。

2  被告は、警察法三八条一項に基づき、福岡県知事の所轄の下に設置された福岡県の機関であり、本件指定処分をなした機関である。

国家公安委員会及び警察庁は、警察法に基づき設置された国家の機関であり、内閣の統括下にある。

福岡県警察は、警察法及び地方自治法に基づき、国の警察事務を団体委任された都道府県警察のひとつであり、福岡県の機関である。

国会は、国の機関であり、衆議院、参議院及びその各常任委員会である地方行政委員会等によって構成されている。

3  警察庁は、暴力団対策研究会を発足させ(会員一五名)、同研究会は、平成二年一一月二九日、同年一二月二一日、平成三年一月一六日、同年二月六日に開催され、同月六日「暴力団対策に係る立法についての意見」をまとめ、この意見中で、また、同月二七日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方」を発表したが、この中で「暴力組織」という用語を用いた。

日本弁護士連合会は、同年三月一五日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方についての意見」を発表し、暴力団対策として新たな法規制が必要か否かという政策的な疑問と、要件や概念の不明確性等の問題点を指摘した。

警察庁は、同年四月、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(仮称)案の骨子」を発表した。内閣は、同月一二日、国会に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律案を提出し、同月一九日、日本弁護士連合会は当該法案についての意見書を発表した。

4  国会は、平成三年五月、暴対法を成立させたが、衆参両議院の各地方行政委員会において附帯決議が附され、政府は、その後、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令(平成三年政令第三三五号。以下「施行令」という。)を制定し、国家公安委員会は、同年一〇月二五日、暴対法に基づき、同委員会規則第四号暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)、同五号暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく聴聞の実施に関する規則(以下「聴聞規則」という。)等を定めた。

暴対法、施行令及び聴聞規則(以下「関係法令」という。)は、いずれも施行期日が平成四年三月一日とされている。

5  警察庁は、法による指定暴力団の指定権限がないが、法施行前に指定方針に関する広報を行ない、その広報のなかには原告が含まれており、当時の警察庁長官は、平成四年二月二六日全国暴力団対策主管課長会議において、暴力団の間に暴対法の指定逃れの動きや抗戦の構えが見えるのでスムーズな施行に全力をあげよとの内容の訓示をした。

6  被告は、草野一家に対し、指定聴聞のための平成四年四月六日付けの聴聞通知書(福岡県公安委員会発第七九号)を送達したが、同聴聞通知書には、聴聞の期日は同月二七日午後一時三〇分からとされ、聴聞期日の変更は行われずに実施され、被告は、審理の冒頭において聴聞通知書の「指定をしようとする理由」と同内容の告知をし、その後、聴聞を終結した。

7  国家公安委員会は、平成四年六月一一日、被告が草野一家を指定するに際してなした確認請求に対して、これを是とする確認をおこない、被告は、同年六月二六日、草野一家を法三条の指定暴力団として指定する本件指定処分をした。

第三  争点

一  暴対法は、違憲性を有し、立法が許されないものであるか否か。

1  立法目的の憲法適合性の有無について

(原告の主張)

暴対法は、草野一家を含む特定の団体を壊滅させることを目的として制定されたものであるから、憲法二一条一項、同一四条に違反し、関係法令は、右目的を実現するために各条項が全体として不可分一体として構成されているから、関係法令は、全体として違憲である。

(被告の主張)

暴対法は、市民生活の安全と平穏の確保を図ることを目的としており、草野一家を含む特定の団体を壊滅させることを目的として制定されたものではない。

2  立法体系の憲法適合性の有無について

(原告の主張)

暴対法は、暴力団員の個人の尊厳と生存を否定して一切の経済活動を否定するなど、目的及び規制手段がいずれも違憲である構造的な体系を備えており、後述のとおり各条項が違憲無効であるのみならず、全体として違憲無効である。

(一) すなわち、集会結社の自由(憲法二一条一項)は、公共の福祉による一般的制約を受けないのであって、当該集会結社の個別的かつ具体的な行為が「現在かつ明白の危険」があり、「より制限的でない他の選びうる手段(LRA)」がない場合に限って当該行為(行動)が制限されるのみであるところ、行為規制によらず、集会結社自体を団体規制する暴対法は、憲法二一条一項に違反し、集会結社の自由は、団体の構成員の脱退などに関しても、公権力による干渉を受けないことを保障しているから、特定の団体から構成員を離脱させる目的の下に、恣意的差別的に公権力の行使がなされれば、結社の自由を害することになるというべきである。また、原告は政治結社であるから、弾圧の対象にはなるべきものではない。

憲法二一条一項は、漠然とした概念や恣意的な運用をなしうる概念など不明確な概念を用いて行為規制や団体規制をすることを許容していないところ、暴対法は、各規制の要件において「みだりに」とか「おそれ」とかの漠然とした概念を用い、また、「必要があると認めるとき」とか「……と認める場合(とき)」とかの恣意的な運用をなしうる概念を用いているから、憲法二一条一項に違反し、無効である。

(二) 「必要があると認めるとき」とか「……と認める場合(とき)」とかの要件は、公安委員会の恣意的な判断を許容することになり、この点で適正手続きを保障した憲法一三条及び三一条に違反する。

(三) 法三条は、暴力団員が「生計の維持」のために資金を得ることすらも否定的価値としている点において、およそ暴力団員の個人としての尊厳や生存を根本から否定するものであって憲法一三条及び二五条に違反する。

(四) 法九条は、指定暴力団員の生存を否定する目的で、その事業活動を一律に禁止するものであり、職業選択・営業の自由を定めた憲法二二条一項に違反する。

(五) 法三四条以下の罰則規定は、白地刑罰法規であって、犯罪構成要件の明確性の原則に違反し、刑罰をもって制裁する必要のない行為を処罰している点で刑罰の謙抑主義に違反し、一年以下の懲役を定めたことは罪刑の均衡原則に違反しており、この点でこれらの諸原則を含めた概念である罪刑法定主義を定めた憲法三一条に違反する。

(六) 法一五条、一八条、一九条は、その事務所や物品の所有権その他の権原の態様、帰属主体等について何ら考慮せずに事務所の使用制限等を禁止し、命令するものであり、かつ、その命令による当該事務所の所有者らに対する損害の補償を全く予定していない点で、財産権の保障を定めた憲法二九条一項及び二項に反する。

(七) 法二二条一項は、実質的に無令状捜索差押を認めた規定であり、憲法三五条に違反するとともに、その立入検査等の結果、信書の開披や自白の強要を許容することとなり、憲法二一条二項後段及び同三八条一項に反する。

(八) 法一五条、一六条、一七条、二〇条一項五号は、憲法二一条一項、一四条に違反する。

法三条の指定を受けた「指定暴力団」という地位は、国家が国民に対して「……おそれの大きい暴力団」として公認することであり、反社会的存在として公示することによって、事実上、法律上の制約を受け、また、指定前の広報等によっても、団体としての活動が制約されたことは、憲法二一条一項に違反する。

原告は、任侠道を信奉し実践する団体であるから、本件指定処分は、憲法一九条、二〇条、二一条一項に違反する。

(九) 警察及び公安委員会は、「無指定暴力団」であり、その暴力団によって他の暴力団を指定する手続きを定めた法律が暴対法であるから、暴対法は憲法一三条、三一条に違反する。

(被告の主張)

(一) 暴対法は、暴力団の活動自体を禁止したり、暴力団の解散を命ずる規定も置いていないから、暴力団又は暴力団員の集会結社の自由を否定するものではない。

同法は、暴力団員の行為を規制する法律であり、三条指定により暴力団を指定するのは、暴対法の規制対象となりうる者を特定するためであるから、原告の主張は失当である。

法三条は、暴力団を同条に定める暴力団であるとの判断をするだけで、その効果として暴力団の集会結社の自由を法的に制限するものではないから、憲法二一条違反の問題は生じない。仮に、暴力団に対する集会結社の自由の制限であるとしても、暴対法は市民生活の安全と平穏の確保を目指すものであり、法三条によっては同条に定める暴力団であるとの判断をするだけで、団体の集会結社自体に何ら規制を加えるものではないから、公共の福祉による必要かつ合理的規制といえる。

なお、原告主張のような「現在かつ明白な危険」「より制限的でない他の選びうる手段」という基準は、集会結社の自由に関する違憲性判断基準となりえない。

原告が不明確の文言がふくまれていると主張する規定は、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその規定が適用されて、そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるから、不明確な規定とはいえない。

また、法三条の指定を行う場合などに原告主張の不明確な文言が含まれているとされる規定が適用されることもあるが、この場合手続き規定が設けられており、公安委員会の恣意的解釈を行うことはできないから、原告の主張は失当である。

(二) 法三条は、指定対象となる暴力団の要件を定めたにすぎず、同条自体が指定暴力団員の生計の維持のための資金獲得行為まで否定するものではないから、憲法一三条、二五条に違反するとの原告の主張は失当である。

(三) 法九条、一五条、一六条、一八条、一九条、二〇条、二二条一項、三四条、三五条は、本件処分の手続き上及び実体上の要件を定めたものではないから、本件処分の適否を左右するものではないうえ、原告は法九条、一五条、一八条、一九条、三四条、三五条の違憲性を主張する法的利益がなく、また、法九条は指定暴力団員の一切の経済活動を禁止、規制するものではない。さらに、暴力団員が一般市民の生命、身体に危険を及ぼす可能性があることから九条、一五条が定められたのであるから、公共の福祉に合致し、合理的な規制である。

(四) 法一六条は、すべての加入の勧誘及び脱退防止のための行為を禁止しているものでなく、公共の福祉による必要かつ合理的な規制であるから憲法二一条一項に違反しない。

(五) 法二〇条二項五号は、暴力団又は暴力団員の行為を規制する規定でないから、暴力団の結社の自由を制限するものではない。

(六) 法は、命令の発出及び範囲を定めているから(一一条、一五条、一七条、一九条)法三四条、三五条が白地刑罰規定であるという原告の主張は失当である。法に基づく命令は、暴力団員による暴力的要求行為等を防止するためのものであるから、刑罰により命令を担保することには合理性があり、法定刑の程度も特段重いものではなく、罪刑の均衡を失するものではない。

(七) 法一五条、一八条、一九条は、市民の生活の安全と平穏の確保を目的とするものであり、財産権の制限といえないか制限といえても公共の福祉による必要かつ合理的な制限といえる。また、この制限は、特別の犠牲を強いるものではないから、損失補償の必要もない。

法二二条一項は、法の施行に必要な限度で認められたものであり、刑事責任追及のための資料収集に直接結びつくものではないから、憲法三五条、三八条に違反しないし、同項は指定暴力団員が任意に応じることを前提にしたものであるから、憲法二一条二項後段に違反しない。

3  立法過程、運用における違憲性の有無について

(原告の主張)

(一) 暴対法の法案提出、審議、関係法令の成立過程等の立法過程において、検討、審議は十分にされていないから、立法過程において適正手続きを要求した憲法一三条に違反する手続きで成立したものである。

また、国権の最高機関である国会の各議院は、附帯決議をなした以上、同附帯決議が遵守されるために、国政調査権を行使しなければならない義務があるにもかかわらず、この義務を怠った点で、憲法二六条に違反している。

(二) 内閣は、国民の権利義務に関する法案提出に際して、その内容が憲法に適合するか否か、その法案審議が十分に行われる時期と方法が保障されているかを配慮すべき義務(憲法一三条、九九条)があるにもかかわらず、これを怠って暴対法案を提出した。

同法案は、警察庁の所管であったが、警察庁は、国会が右法案を十分に審議できない時期に提案し、内閣は、これをそのまま提出した点で、国会の審議権を侵害したものといえ、憲法四一条に違反するものである。

(三) 内閣及び国家公安委員会は、右附帯決議があるにもかかわらず、これを無視している点で憲法七三条一号、九九条に違反している。

(四) 警察庁は指定権限がないにもかかわらず、指定予定団体を発表し、都道府県公安委員会及び国家公安委員会は黙認した。これは、警察法及び右附帯決議二項に違反するもので憲法七三条一項に違反する。

(被告の主張)

本件立法過程には何ら瑕疵はなく、附帯決議には何ら法的効力がない上、立法手続き上何らかの義務が課されるものではない。さらに、警察の広報行為の違法の主張の点については、本件指定処分の違法事由とは何ら関係がないから、原告の主張は失当である。

二  暴対法関係法令の各条項は、違憲性を有するものであるか否か。

1  法三条本文(暴力団要件)の違憲性の有無について

(原告の主張)

(一) 法三条は、指定暴力団としての指定に際し、当該団体が「暴力団」(法二条二号)に該当する事実を要件の一つとしているところ、本件指定処分においては、原告が「暴力団」(法二条二号)に該当するとの事実が認定されていないから、法三条本文、二条二号に違反する。法三条と二条二号の「おそれが大きい」と「おそれ」とは、事実認定の程度の差にすぎないのに、その程度に関する認定に法三条各号の事実を要求している。特に、「大きい」ことの要件として法三条各号を定めたならば、「おそれ」についての要件も詳細に設定しなければならないはずであるのに、単に「おそれ」という抽象的概念にとどまっている。また、「おそれ」とか「大きい」とかの抽象的かつ不明確な概念をもって人権を制約することは、憲法一三条及び三一条に違反する。

(二) 法三条本文は、公安委員会に指定権限を付与しているが、公安委員会の許認可事務は、実質は警察が行っており、また、暴対法は、指定請求なしに公安委員会が指定できる点で訴追者と審判者が一体となっている点で手続きの公正を害する恐れがある。さらに、暴対法による公安委員会の権限付与は、警察比例の原則に違反し、公安委員会の目的と機能の範囲に関する基本法である警察法を逸脱している。さらに、法三条の前提である法二条の「団体」という概念は不明確である。

以上のことからすると、適正な手続きによる指定がなされることができないので、法三条本文は、憲法一三条及び三一条に違反する。

(被告の主張)

法三条は、当該団体が「暴力団」(法二条二号)に該当する事実を要件の一つとしてはいない。法三条と二条二号の「おそれが大きい」と「おそれ」という文言は、法三条指定の要件ではないから、右文言の恣意的解釈の余地はない。

法三条指定の権限等は、警察法三八条四項で準用する同法五条三項に基づき、暴対法によって三条指定の権限が公安委員会に属せられ、三条指定にかかる事務を公安委員会が所掌することになったことから、かかる取扱いとなったものである。

したがって、公安委員会が三条指定権限を有し、これにかかる事務を執行することは、憲法及び警察法の体系上、何ら問題はなく、暴力団につき法三条各号の要件を充足すると認めるときに、当該暴力団に対し三条指定をすることは、暴対法によって与えられた権限行使として憲法違反の問題は生じない。

2  法三条一号(目的要件)の違憲性の有無について

(原告の主張)

「名目上の目的のいかんを問わず」実質上の目的を認定する手続きのもとに、公安委員会の職権的秘密主義が貫かれている点で、憲法三一条、一三条に違反し、「実質上の目的」という不明確な概念によって団体を規制することは、憲法二一条一項に違反し、無効である。

(被告の主張)

公安委員会が法三条によって指定暴力団を指定する場合、法三条の要件を充たすか否かについて、聴聞(法五条)、審査専門委員の意見聴取、国家公安委員会の確認(法六条)という手続きがなされるから、憲法一三条、三一条に違反しないし、法三条一号の規定は不明確ではないから、憲法二一条一項にも違反しない。

3  法三条二号(比率要件)の違憲性の有無について

(原告の主張)

(一) 犯罪経歴保有者の地位は、憲法一四条の社会的身分に該当し、一定の政令比率を超える犯罪経歴保有者数を構成員としている団体の地位も同条の社会的身分に該当するところ、当該団体構成員の犯罪経歴保有者数の比率をもって指定要件の一つとすることは、当該犯罪経歴保有者に対し、不合理な差別をしているのみならず、同人らを構成員として結成した当該結社に対しても不合理な差別をすることになり、憲法一四条に違反するものである。

(二) また、原告のように、この比率を充足するとして指定された団体の地位も社会的身分に該当するから、原告のようにその構成員の中に犯罪経歴を有しない者も多く存在する場合、この者は自己に関係のない事由をもって所属団体が指定され、自己に関係のない事由をもって「指定暴力団員」という社会的身分が付与され、社会的活動に法九条等の制限がなされる点で不合理な差別であり、憲法一四条に違反する。

(三) 法三条二号と施行令は、集団の区分ごとに政令比率に差異を設けているが、集団の人数と政令比率の差異との間には、論理的関連性がなく、この差別区分を設けることは合理性がないから、憲法一四条に違反する。

(四) 犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする暴対法の扱いは、憲法一四条だけではなく、同法二一条一項にも違反する。

(五) 法三条二号の「幹部」の概念は、不明確であり、当該団体とは無関係に幹部を認定し、指定処分をすることは、結社の自由を侵害するものとして憲法二一条一項の結社の自由に反する。

(六) 法三条の委任を受けた施行規則二条は、何ら合理的な根拠もなく不明確な基準である。また、「政令で定める比率」の基準設定において、法三条二号本文の表現は明確性を欠くものであるから、憲法二一条一項に反する。

すなわち、政令比率の算出の前提としての統計資料が、刑務所のように高比率非暴力団が含まれているのか、日本国籍をもたない者らで構成される集団は含まれないのか、各概念間の統一性等が欠けており、「暴力団」と「暴力団以外の集団一般」との区別をする基準が不明確であり、法三条二号の要件では、明確とはいえないから、そもそも基準足り得ないものである。

また、法三条二号の「確実」という表現は、統計学上及び確率論上全く起こりえないかすべて起こりうるかのどちらかであるのに、括弧書きでは一〇万分の一以下になっている。法三条二号本文の政令比率と比較対象されるのは「暴力団以外の集団一般」であるのに対し、括弧書きの政令比率を比較対象される集団は「国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団」とし、「暴力団」と「暴力団以外の集団」とし区別していない。さらに、法三条二号本文の「暴力団以外の集団」は、国民と外国人とを区別していないのに、括弧書きでは、「国民」に限っているなど法三条二号本文と括弧書きとは同じ内容ではなく、全く異なる基準で設定されている。法三条二号の政令比率の「国民」は、外国人まで含むのか明らかでなく、外国人を含まないなら外国人を排除している点でも合理性がない。

(七) 刑法二七条、恩赦法三条によれば、刑の執行猶予の期間を取り消されることなく経過したときは、刑の言渡しの効力が消滅することになり、法律上言渡しを受けていない者となるから、法三条二号ハないしへの適用がないことになるが、「言渡しを受け」との表現が、事実上という意味で解釈運用されるときには、法の下の平等に反し、憲法一四条に違反する結果となる。

(被告の主張)

(一) 二号要件は、暴力団には犯罪経歴保有者の多数がその構成員となっているという特性に着目して要件とされたのであり、犯罪経歴を有するという理由で犯罪経歴保有者を差別するものではなく、団体がその構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体か否かは社会的身分でもない。さらに、前述の暴力団の特性に鑑みれば、団体がその構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体と他の団体とで異なる取扱いをすることは、合理的理由があるというべきである。

暴力団員が市民の生命や身体に危険を及ぼしていることからすると、指定暴力団のなかの犯罪経歴を有する者とそうでない者とで何ら差異はなく、暴対法の規制は、合理的な理由に基づく規制というべきである。

また、法三条二号は、暴力団には、暴力団員が犯すことの多い犯罪を行った経歴のある者が著しく多く含まれている事実に着目し、要件が定められたのであるから、合理性があり、客観的かつ明確な基準というべきである。このように、犯罪経歴保有者比率の要件は、暴力団性の判断のために設けられたものであり、暴力団の是非の価値判断をするものではないから、原告の主張は失当である。

(二) 犯罪経歴保有者の要件は、暴力団の構成員には一定の犯罪行為を行った者が著しく多いという事実に着目したもので、刑法等とは異なる見地から要件とされたのであるから、憲法一四条違反の問題は生じない。

(三) 法三条二号の「幹部」概念は、団体の暴力団性の要件である犯罪経歴保有比率を判断する対象者の範囲を定めたものであるから、原告の定める幹部概念とはもともと異なるのであり、このことが原告の集会結社の自由の干渉になる余地はない。

4  法三条三号(団体要件)の違憲性の有無について

(原告の主張)

「運営を支配する地位」という概念は、不明確であり、憲法二一条一項に反する。

法三条一号の「資金を得ることができるようにする」とか、当該団体の「威力をその暴力団員に利用させ」とかの消極的行為類型の目的概念とその団体を「支配」する組織運営行為の概念とは、関連性が極めて不明確である。

(被告の主張)

「運営を支配する地位」という概念が、不明確とはいえない。

5  聴聞規則五条の違憲性の有無について

(原告の主張)

聴聞規則五条は、法五条の聴聞の場合には全部不能、法二三条の聴聞の場合には一部不能の規定であり、各聴聞において忌避事由に差異がある規定であって、規定に過誤又は不備がある。また、聴聞通知書受領拒絶理由は審理の公正を妨げるおそれがあるものであり、右のような規定の不備がある場合には、一般条項により忌避の申し出が認められるべきであるところ、この手続きの定めはないから、当該規定自体及びその運用は、憲法一四条、三一条、一三条に違反するものである。

(被告の主張)

聴聞規則五条は、もともと法二三条の場合についての規定であり、法五条と法二三条とでは趣旨が異なるから、忌避事由が異なるのは当然であり規定に過誤又は不備があるのではない。また、法五条には聴聞規則四条で除斥事由が定められており、手続きの公正さは担保されている。

三  関係法令の制定・運用は違法性を有するものであるか否か。

(原告の主張)〈省略〉

(被告の主張)〈省略〉

四  法施行前の広報行為に違法性があるか否か。

(原告の主張)〈省略〉

(被告の主張)〈省略〉

五  本件指定処分に至る各手続きに違法性があるか否か。〈省略〉

六  原告に対する法三条の本件指定処分は、指定要件が欠缺したものであるか否か。〈省略〉

七  指定処分自体の違法性の有無について〈省略〉

第四  認定事実

前記当事者間に争いのない事実、本件各証拠(各項冒頭に記載)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

一  暴対法成立の経緯、制度の内容の概略等

(甲七、三五、四八、四九、六五、七二の1、2、七九、乙一ないし七、八の1ないし26、九の1、2、一〇、一一の1ないし19、一二の1ないし12、一三、一四の1ないし5、一五の1ないし4、二八、二九、三五関係各証拠、三六、証人古谷)

1  暴力団の実体と世論等

暴力団の用語が定着したのは、昭和三〇年代である。暴力団は、従来、覚醒剤の密売、賭博、ノミ行為、ゆすり・たかり等の恐喝、みかじめ料の要求などを行ってきたが、昭和三八年には暴力団組織は一八万人を超え、それに対応して、昭和三九年に暴力行為等処罰に関する法律の改正がされるなどした。その後、全国の警察による暴力団に対する第一次、第二次頂上作戦が実施され、暴力団排除対策も一応の功を奏し、全体として勢力は減少し、昭和五六年には暴力団員数(準構成員を含む。)は、約一〇万人に減少したが、近年、暴力団は、社会問題への関与や政治活動を仮装、標榜して、また、交通事故の示談、不動産の賃貸借に伴うトラブル、債権取立て等の民事問題に介入、関与して、企業や市民から違法、不当な資金の獲得を図るようになり、これらの民事介入暴力事件は、手口が巧妙になっていることや、検挙の対象となりにくい事例が多いことから、一般市民は被害の甘受を余儀なくされる状況となっている。また、合法事業を装って資金獲得を図ろうとする動きも顕著であり、平成元年末では暴力団員数は、八万七二〇〇人、暴力団の年間収入は、一兆三〇〇〇億円を超えるといわれるまでに至っている。

また、暴力団は、その組織の拡大、資金源の拡大、維持のために他の暴力団との抗争を引き起こしてきており、その縄張り争い等から、対立抗争事件を繰り返してきた(昭和六〇年には、年間に約三〇〇回の抗争事件が発生した。)が、近年では、山口組、稲川会、住吉連合会等の大規模な暴力団による寡占化が進む過程において、対立抗争等に備えてその武装化が促進され、暴力組織の末端や周辺層までもが拳銃を持つこととなり(暴力団員一人が一丁の銃を所持しているとまで言われている。)、そのため、これが簡単に使用される例が増加し、これまで多くの一般市民が巻き添えとなって死傷し、市民社会に与える脅威は、さらに深刻化してきている。また、暴力団事務所の使用としては、大々的に団体の代紋や看板を掲げているが、市民が不安を感じて、対立抗争の巻き添え、周辺の違法駐車、威圧感などのために事務所の撤去を求める住民運動が全国的に行われるに至り、一種の社会問題化するに至った。

このような国民の要望、機運の状況のもとに、直接には暴力団の対立抗争による発砲事件が契機となり、現行法令では十分にカバーできないか、現行法令に抵触しないような形で敢行されている暴力団員による各種の不当な行為を規制していくための暴力団対策の立法化が求められるに至った。

なお、平成三年一月から二月にかけての都内の飲食店等の営業を営む経営者について、いやがらせ、みかじめ料等経験の有無のアンケートについては、四三パーセントが「ある」との回答をし、また、平成二年一〇月から一一月にかけて警察庁が福島県等六県所在の暴力団事務所用の建物の所有者一〇〇名に対してしたアンケート調査では、七八名が「個人用住宅として賃貸したが、知らない間に暴力団事務所となっていた。」旨の回答をしており、平成三年二月から三月にかけて、政令指定都市を中心に全国一六都道府県の住民を対象にされたアンケートでも暴力団対策立法を望む声が大勢を占め、各地方公共団体等によっても、暴力団対策立法を要望する旨の決議がされた。

2  暴対法の審議と成立の経過

暴対法等の成立、施行の経過の概略は、第二、二、3ないし5のとおりである。

暴対法については、その目的には賛成が圧倒的に多数であるものの、憲法二一条の集会、結社の自由等の基本的人権保障の規定との整合性についての疑問を指摘する意見もあったが、基本的な骨格として、暴力団員取り締まりについての特別法をつくること、市民、企業など民間の暴力団排除運動の活性化を図ること、刑罰を第二次的とし、第一次的には、中止命令などの行政取り締まりを可能とすることの案が進行し、第一二〇回通常国会では、平成三年四月一日に上程され、衆議院地方行政委員会に付託された後、全会一致で可決され、その後の衆議院本会議の全会一致の可決を経て、会期末の五月八日参議院本会議で全会一致で可決成立し、その際、各院において別紙一のとおりの附帯決議がされ、そのほかの関係諸法令とともに制定、施行された。

3  暴対法、指定暴力団制度及び施行規則等

(一) 暴対法の概要

暴対法本則は、全三八か条、関連の国家公安委員会規則は四本合計一〇八か条、並びに国家公安委員会告示は一本一四か条、総合計一六四条に及んでおり、その基本根幹をなすのは、暴力団の指定制度であるが、暴対法は、暴力団の構成員である個々の暴力団員の一定の行為について必要な規制をするというものであり、暴力団そのものに解散を命じたり、あるいは暴力団を結成することを禁じたりするような団体そのものを直接規制することを内容とはしていない。同法により、従前の刑事法令によっては犯罪として立件することが困難とされた暴力団員の一定の行為が規制されることになったが、すべての暴力団員の一定の行為が直接規制されるものではなく、その行為が暴対法によって定められた一定の行為に該当することが必要とされており、また、その行為を行う者が都道府県公安委員会から一定の要件に充足する暴力団または暴力団連合体であるとの指定を受けた暴力団の構成員でなくてはならないとの方法が採られている。したがって、自己が所属する団体が公安委員会から指定を受けたか否は、重大な影響を持つことになるが、指定制度が採用されたのは、暴力団としての実体を有する団体の指定逃れに対処し、あるいは暴力団以外の団体が指定されることのないように、いわば振分け作業をするともいえるものであり、概要は次のとおりである。

(1) 指定暴力団の指定(法三条)

一定の要件を満たす暴力団について、その暴力団の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定する。

(2) 指定暴力団員の禁止行為(法九条、一六条、一八条)

指定された暴力団について右の行為が禁止される。

(3) 行政命令(法一一条、一二条、一五条、一七条、一九条)

公安委員会は、指定暴力団員が右法条による禁止行為をしたときは、当該行為の中止を命令することができ、また一定の要件を満たすときは、当該事務所を現に管理している指定暴力団員に対し、一定期間、使用の禁止を命じることができる。

(4) 罰則(法三四条、三五条)

右の命令の実効性を担保するため、命令に違反する行為をした者は、五〇万円以下の罰金、一年以下の懲役に処せられることになっている。

(二) 指定暴力団制度について

指定暴力団指定の要件は、法三条一ないし三号で規定されているが、第一に実質的な存立目的の該当(目的要件という。)、第二に犯罪経歴保有者要件の該当(比率要件という。)、第三に階層構成要件の該当(団体要件という。)の各要件を充足することが求められ、指定の手続についての細目事項は、政令及び国家公安委員会規則で定められることになっているが、指定に当たっては、公安委員会による公開の聴聞の手続き(法五条)がとられ、当該公安委員会は、必ず国家公安委員会に要件該当の確認を求める(法六条)こととされるなど、他の団体を指定することのないように配慮がされている。

指定は、官報による公示によって効力を生じるが、その有効期間は、公示のあったときから三年間であり、解散等によるときは、取消しをすることとされ、三年の経過とともに自動的に効力は失われる。したがって、当該暴力団への規制の継続の必要のあるときは、改めて法五条以下の手続をする必要があることとされている。

(三) 施行規則等について

施行令、施行規則は、暴対法の施行に関し、細目を定めているが、同規則は、法二条一号の暴力的不法行為等として、暴力団員が犯すことの多い犯罪(法別表に掲げる二八の法律に定める犯罪)を定めているほか、法三条二号の比率要件に関し、幹部についての要件(同規則二条一ないし三号)を定め、また比率算定の基準日等を定めている(同規則三条)。もともと、比率要件は、指定がされる団体は、犯罪経歴のある者が著しく多い事実に着目して、他の団体が間違って指定されないように区別するために要件とされたものであり、施行令は、集団の人数の区分毎に「集団の人数」が三人又は四人のときは、66.67パーセントとして、人数が増える毎に比率は低減することとして、一〇〇〇人以上のときは、4.11パーセントとされている。右比率は、確率の計算方法について二項分布の計算方法により、集団の人数の区分に応じて、国民の中から任意に抽出した集団における犯罪歴保有者の占める比率が施行令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率を計算して規定されたものであるが、暴力団以外の集団であれば、その構成員の犯罪歴保有者の比率が施行令一条に定める比率以上となることが現実的にあり得ないといえるだけの確率を持った比率である。具体的には、国民の中に占める犯罪経歴保有者数は、司法統計年表等により調査された暴力的不法行為等に係る罪を処断罪として刑に処せられた者の人数等を合計して算出し、推計により国民の中の犯罪経歴保有者比率を0.92パーセントとして計算がされているが、実際の人数より多いものとして、三条指定が厳しくなる方向での計算がされている。

(四) 民間活力の活用等

暴対法の立法化にあたっては、民間活力の利用等が図られるものとして、暴力追放運動推進センター(法二〇条、以下「暴追センター」という。)の制度が新設された。同センターは、市民・企業などの民間の暴力排除運動の活性化を図るべく、各都道府県に一つに限り都道府県センターを、全国に一つに限り、全国暴力追放運動推進センターを指定することができることになっており、それぞれ暴力団員による不当な行為の予防や、少年に対する暴力団の影響の排除の活動やその被害者への見舞金の支給等により、幅広く暴力を追放するというものである。

二  原告の構成及び活動等

(甲三、八、七一、乙一六ないし二三、二四1ないし21、二五の1ないし10、二六の1ないし9、二七の1ないし7、三七ないし四三、四四関係各証拠、四五関係各証拠、四六、証人古谷)

1  草野一家は、昭和六二年六月一七日、北九州市における従前の二大勢力であった「工藤会」と「草野一家」とをもとにして結成された。平成二年一二月九日、溝下秀男が二代目総長を襲名し、団体の名称を「二代目工藤連合草野一家」と改称のうえ、二代目総長溝下秀男、名誉総裁工藤玄治、総裁草野高明、総長代行天野義孝の新体制となった。北九州市小倉北区神岳一丁目一番一二号に主たる事務所が置かれ、平成四年三月一〇日現在、福岡、長崎、山口の三県にわたり構成員約六〇〇人を有する団体である。

2  原告においては、団体を代表する総長の溝下秀男のほか、団体運営を支配する名誉総裁・総長代行・若頭・最高顧問・常任相談役各一人・相談役(八人)・事務総局長・総本部長・組織委員長・常任委員長・幹事長・風紀委員長・事務局長・筆頭若頭補佐・総長付室長各一人の合計二二人がいるほか、若頭補佐一一人・直若二八人・専務理事二一人・その他常任理事・理事・幹事等の地位の階層がある。総長以下、専務理事までの幹部の犯罪経歴保有者の人数は、四〇人である。

組織の運営方針等、団体としての意思を決定する事項については、通常執行部(若頭・総本部長・組織委員長・常任委員長・幹事長・風紀委員長・事務局長・筆頭若頭補佐・総長付室長で構成)において協議し、その結果を総長に上申して判断を仰ぎ、総長が最終決定をしている。

3  原告への加入は、親子盃、兄弟盃という盃を交わす儀式を行うことによって、親子・兄弟という擬制的血縁関係が生じたとされているが、この儀式等も原則として各傘下組織の長に委ねられており、加入と同時に原告の代紋入りのバッジが傘下組織の長から交付されている。原告からの排除については、直若以上の地位にある者については、総長の直接の裁断、常任理事・理事については、執行部の審議を経て総長の裁断、幹事以下については、各傘下組織の長の判断によって行われるが、事前に本部に報告することが必要とされている。

4  原告は、北九州市一円及び長崎、山口両県の一部を「シマ(縄張り)」と称して各地域に組長を名乗った責任者を置き、他の暴力団を排除し、構成員は、その「シマ」を中心に、代紋入りのバッジを誇示したり、団体名を相手に告げるなどの方法によって原告の威力を利用した風俗営業者等に対するみかじめ料(縄張り内で営業を営む者に対して、その営業を営むことを容認する対償として供与された金品)の要求、債権の取立て、賭博、交通事故の示談介入等の不法な資金獲得行為をしており、みかじめ料の要求にあたり、その要求を拒絶した相手には、暴力を加え、あるいは店舗内に劇薬を投げ込み、営業活動を妨害するなどしている。これらの行為をしたことで、過去五年間に約二五〇名が警察によって検挙されており、検挙されたのは、原告の末端の構成員に限らず、幹部も含まれているが、原告は、このような行為をしたことを理由として右構成員らに対し、その組織内の処分はしていない。

三  聴聞と指定の経緯

(甲三、四、八ないし一一、一七、一九、二〇、六五、七一、七六、乙一六ないし二三、二四の1ないし21、二五の1ないし3、二五関係各証拠、三〇、三一、三二の1ないし3、三三の1、2、三七ないし四三、四四関係各証拠、四五関係各証拠、証人古谷)

1  警察庁の方針等

全国の暴力団のうちの最大のものは、山口組であって、全国に約三万人を超える構成員がいると言われているが、他には、稲川会、住吉連合会等のほか、九州を本拠とする原告が主たる勢力を占めており、警察庁は、前記第二、二、5のとおり、法施行前に指定方針に関する広報を行ない、原告を予定指定暴力団体にあげていた。

暴対法成立後、被告は、原告を指定暴力団に指定する対象として、聴聞手続を進めていたが、原告総長の溝下は、平成三年七月ころはその身柄は勾留中であった。

2  原告への聴聞通知等

被告では、勾留中の原告代表者の溝下に対してではなく、代理を務める原告総長代行の天野義孝に対し、法五条二項の聴聞通知の手続をとることを予定していたが、平成四年四月六日同人が北九州市内の小倉北警察署に呼び出されていることを知り、同所で聴聞通知書を出会送達することにし、同日午後三時二〇分ころ、被告係官は、同署会議室において天野及び同人の同伴者である原告最高顧問の林東鍋と面会した。同係官らは、天野に対し、直ちに同日付けの同人宛て聴聞通知書(福岡県公安委員会発第七九号)を示し、指定にかかる聴聞を実施する旨及び聴聞の期日が同月二七日午後一時三〇分からであり、聴聞の場所が福岡市博多区東公園七番七号所在の福岡県警察本部一階の聴聞会場であることなどを口頭で説明し、さらに「聴聞についてのお知らせ」と題する説明書に基づいてその説明をした。天野は、聴聞通知書を受け取ろうとしたが、同席していた林が制止し、押し問答の末、天野は、聴聞通知書の受領を拒否した。その後、再度の出頭が要請され、同日午後五時三〇分ころ、天野は、一人で小倉北警察署に出頭してきたので、同署会議室において、被告係官は、再度、聴聞の日時場所等の必要事項を説明した上、受領を促したところ、天野は、「いずれ受け取って聴聞には出席する。しかし、今日は前にも言ったように総長などの意向を聞けないから受け取る訳には行かない。自分の一存だけではできない事情がある。山口組の聴聞が終わる一〇日以降には受け取る。」等と述べて受領を拒否した。そこで、被告係官は、天野に対し、聴聞の内容を通知し、関連する説明事項を伝達し、それが正式な通知であることを担保するためとして、録音等の措置を講ずる旨申し向けたところ、天野は「通知書は受け取れないが、通知の内容を聞くことは差し支えない。」としてこれを承諾した。

そして、同日午後七時、同署会議室において、被告係官は、天野に対し、聴聞通知書と前記説明書の全文を読み上げて聴聞に関する事項をすべて告知するとともに、同状況を録音し、写真撮影を実施した。その間、天野は、被告係官の読み上げに耳を傾け、通知は間違いなく聞いた旨返答し、聴聞の通知を受けたこと及びその内容を十分理解した旨の天野作成名義の申立書をその場で作成し、聴聞通知書は受領せずに退出した。

被告係官の古谷ら四名は、同月一〇日午後〇時五〇分、前記のとおり、天野が「一〇日以降には受け取る。」と言っていたことを受けて、原告の主たる事務所である北九州市小倉北区神岳一丁目一番一二号所在の通商草野会館に赴いた。同事務所内には、原告組員四名が在室していたが、天野は不在であり、所在も判明しなかった。そこで、古谷らは、在室していた組員のうち、責任者で、原告の理事である伊崎美津夫に聴聞通知書(乙三〇)を交付し、同人名義の受領確認書を徴した。

3  聴聞の経過

平成四年四月二七日午後一時三〇分ころから福岡市博多区東公園七番七号の福岡県警察本部一階の聴聞会場において、天野、代理人原田利勝こと原田信臣、補佐人林武男こと林東鍋の出席のもとに、原告に対する聴聞が実施された。審理の冒頭において聴聞通知書の「指定をしようとする理由」と同内容の告知がされ、聴聞官が代理人及び補佐人に対し、「指定をしようとする理由」について意見を求められたところ、代理人原田において用意してきている意見書を朗読したい旨を申し出たので、聴聞官がこれを許可し、代理人原田は意見書を読み上げた。その後、聴聞官が代理人原田に対し、意見書の趣旨を確認した。さらに、補佐人から意見陳述がされ、証拠調べがなされた後、五分間ほどの休憩をはさみ、これ以上の意見陳述、証拠提出の申し出がないか否かの確認がされ、聴聞は終了した。

4  原告への本件指定処分

その後、第二、二、7の経緯のもとに、本件指定処分がされた。指定通知書中の「指定をした理由」は別紙二のとおりである。

指定に当たり、基準日とされた平成四年三月一〇日現在の施行規則二条に該当する原告の幹部と認定され者は、八三名である。そして、そのうちの施行規則二条一項所定の幹部は、一名(溝下)、同条二号所定の幹部は、二二名、同条三号所定の幹部は、六〇名であり、右幹部のうちの法三条二号イからへのいずれかに該当する犯罪経歴保有者は、四〇名であった。なお、基準日現在の原告構成員数は、六〇二名であった。

四  暴対法の現状等

(甲七、一八ないし二〇、六五、七〇、証人古谷)

1  平成五年二月末現在、暴対法三条により指定がされた暴力団は、一六団体である。また、暴対法上は、従前の暴力追放運動推進協議会が母体となって、前記暴追センターが公益法人化されることになっており、同センターは、広報活動や民間の予防活動の援助、暴力団員による不当な行為に関する相談などを実施してきているが、少年に対する暴力団の影響の排除のための活動や暴力団離脱者の援助等も大きな仕事となっており、平成五年二月現在で、約二四の暴追センターが設立されるに至っている。

前記のとおり、暴対法は、暴力団に対して直接、その解散を命じるものではないが、暴追センターなどの活用も相まって市民や民間会社が暴力団員に対抗する事例も多くなり、その結果、暴力団はその資金源を断たれ、暴力団を離脱しようとする暴力団員希望者もいる状況となり、公安委員会による離脱妨害の中止命令も発せられることが多くなり、さらにこれらの離脱者の社会復帰対策の重要性が増加したため、その就業を中心とした社会復帰促進の組織作りが各地で始められ、都道府県センター等で構成された社会復帰協議会が設立され、社会復帰の支援がされることとなった。

なお、平成四年七月から平成五年二月までの間の公安委員会による命令の発出状況は、法一一条一項の暴力的要求行為に対する中止命令約一五〇件、加入の強要等に関する中止命令約一八〇件であり、平成三、四年は、対立抗争による銃の発砲事件は減少している。また、被告は、法一七条一項により、原告団員内野勉に対し、平成四年一二月一五日付けで、「傘下組織である大原組から脱退することを妨害してはならない。」との中止命令を発したが、その理由は、「法一六条二項の規定に違反する行為をし、相手方が困惑している。」というものであり、その後も被告は、原告構成員に対し、平成五年一月六日付け、同月七日付けで同旨の中止命令を発している。

2  暴力団の銃使用については、所持等を厳しく制限すべきであるとの世論が強く、平成三年四月二三日、銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律が可決され、同年五月二日に公布され、平成四年三月一日から施行された。主として拳銃等の規制を目的とするものであり、暴力団員については、従来も拳銃所持の許可はされていなかったが、より暴力団排除の趣旨を明確化するものとして、同法五条一項五号の三の規定が新設され、公安委員会は、「集団的または常習的に暴力的不法行為またはその他の罪に当たる違法な行為を行う恐れがあると認めるに足りる相当な理由がある者」については、銃砲または刀剣類の所持の許可をしてはならないこととなった。そして、改正法に伴い、衆参両院において、「暴力団が密輸入によって大量の銃器を隠匿保有していると見込まれる現状に鑑み、拳銃等の銃器の密輸入ルートの解明及び撲滅に全力を挙げること」などの項目を含む附帯決議がされた。

3  平成五年三月三日政府案として暴力団員による不当な行為の防止に関する法律の一部を改正する法律案が国会に提出され、衆参両院本会議を経て全会一致で可決成立し、同年五月一二日の「暴力団による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律」(平成五年法律第四一号)として施行された。法九条関係では、暴力的要求行為の行為類型の追加がされ、法二八条一項の援護の措置の規定が設けられている。

五  以上の事実が認められ、林作成名義の陳述書(甲八)、原告代表者ら三名作成名義の意見書と平成四年五月五日付けの聴聞調書(乙三三の1、2)によれば、原告代理人である林らは、前記聴聞会において平成四年四月一八日に聴聞の通知を受理した旨の主張をしていたことが認められるが、乙三三の1、2と古谷証言に照らし、前記のとおり認定するのが相当であり、右林らの陳述内容等は、採用することができない。

第五  暴対法、関係法令等の憲法適合性についての主張(第三、一、二)に対する判断

一  立法目的、立法体系及び関係法令各条項の憲法適合性に関する主張について

1  原告は、暴対法は、原告を含む特定の団体を壊滅させることを目的として制定されたもので、憲法二一条一項、同一四条に違反し、関係法令は、右目的を実現するために各条項が全体として不可分一体を構成するから、関係法令全体が違憲であるとの主張(第三、一、1)及び暴対法は暴力団員の個人の尊厳と生存を否定して一切の経済活動を否定するなど、目的及び規制手段さらには運用等がいずれも違憲である構造的な体系を備えており、関係法令の各条項も明確性を欠き、憲法一三条、一四条、一九条、二〇条、二一条、二二条、二九条、三一条、三四条、三五条、三八条に反し、無効であるとの主張(第三、一、2及び第三、二)をする。

2 確かに、憲法一九条は、個人の尊厳の根源としての思想、良心を不可侵のものとし、人の集まりである団体、結社は、その思想等の外形的な発露であることに鑑み、憲法二一条は、これを保障することがすなわち個人の思想等を尊重することであるとして団体、結社の自由を保障し、憲法一四条もこのような個人の尊厳を基として、不当に差別されるべきものではないことを明らかにしているのであって、そのほかの職業選択の自由等の基本的人権も憲法が保障するものであるところ、暴力団も個人の結合である団体、結社であり、構成する個人については、その憲法上の人権保障の規定は当然に効力が及ぶものであるから、一律にその結社や行動等を禁止し、規制することは、憲法の基本的人権保障の趣旨を無視し、各条項を形骸化し、個人の思想、良心を弾圧する結果を招来しかねないということができる。

しかるところ、法三条による指定暴力団との指定処分は、その指定された団体が法に抵触し、存在を許されないとの印象を与えることになることは、払拭できず、その指定された団体の構成員が、いわば暴力的行為を常習する者との印象を受けることは免れないところであり、また、憲法一四条一項にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものである(最高裁昭和三九年五月二七日判決民集一八巻四号六七六頁)が、少なくとも原告主張のとおり、犯罪経歴保有者の地位は、右にいう社会的身分に当たると解することができ、これを理由として他と異なる取扱いをすることには慎重でなければならないところである。

3 しかしながら、暴力団の存在と実態は、第四、一、1のとおりであって、否定し難く、暴力団が暴力行為に訴えること、すなわち、他の個人の基本的人権の侵害を標榜して存在することは明らかであり、その思想は外形的行為として発現されることは許されないものである上、結社の自由等も憲法が保障する重要な基本的人権ではあるが、他の人権との調和の観点からの内在的制約は当然に存するのであり、また、社会公共の福祉を図るために必要と認められる場合の合理的な制約は、必要最小限度の範囲で認められると解されるのであって、憲法一三条が「個人の尊厳、幸福追求権についても公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。」とし、憲法二二条、二九条が公共の福祉に反しない限りでの保障を規定しているのも、この点からのやむを得ない合理的な制限を容認する趣旨と解される(なお、公共の福祉、合理的取扱いの観点からの基本的人権の制限に関し、前掲最高裁昭和三九年判決のほか、最高裁昭和五〇年四月三〇日判決民集二九巻四号五七二頁、最高裁平成四年七月一日判決民集四六巻五号四三七頁、昭和四一年七月二〇日判決民集二〇巻六号一二一七頁、昭和六〇年三月二七日判決民集三九巻二号二四七頁)。

このように、個人の自由等も他の人権等の調和のうえに成り立っており、合理的な基準等による公共の福祉の観点からのものである限り、その行動等の制限は許されるというほかはないところ、暴対法は、暴力団の対立抗争事件の頻発とその拳銃等の武装化の促進、これにより何らの関係のない一般市民が巻き添えとなることの脅威の深刻化、暴力団の大規模化等の状況のもとに、現行法令では十分に対処し得ず、現行法令に抵触しない形で敢行されている暴力団員による各種の不当行為を規制していく必要から立法化が検討され、成立したものであり(第四、一、1、2)、これらの経緯からすれば、その立法の趣旨は、市民生活の安全と平穏の確保を図ることにあり(同法一条)、この目的自体は必要かつ合理的なものといわねばならないところである。

4 もとより、このような立法の趣旨、経過に鑑みれば、暴対法が暴力に訴える組織や団体の行為を規制することになることは否めない点があり、その立法の過程で、原告らへの団体指定が前提とした議論がされたといえるものの、同法は、ただ特定の団体の壊滅等のためにのみ制定されたものではない上、暴力団の構成員にとっては、法が企図する規制は、自らの他の人権侵害を阻止される結果になるというにすぎず、法体系上も、基本的には、暴力団への自発的加入を犯罪とするものではない。暴対法を通観しても、団体の活動の制限、団体の解散等のような団体への直接の規制は、行うこととされておらず、指定については、一応三年間の有効期限を限ってなされ、また、指定に当たっては、暴力団しか有しない団体的特徴を法文上で明示し、対象の範囲の拡大をなくすとともに審査専門委員制度(法二七条)と不服申立制度(法二六条)を設けて暴力団の規定の趣旨に逸脱した指定がされないように配慮がされている上、直接には指定暴力団の構成員の具体的な暴力的要求行為が規制されることになっており(第四、一、3、(一)ないし(三))、これらは、他人の人権を著しく侵害するもので、しかも、直接に違反行為を罰するのではなく、指定制度を前提とした中止命令を前置してされるのであるから、暴対法による規制の目的は、公共の福祉の観点からのものであり、一応の合理性がある制度ということができる。

さらに、団体規制についての他の制度をみても、商法五八条は、不法目的により設立された会社の解散命令について規定し、破壊活動防止法七条は、一定の場合における解散指定を定めており、また、暴対法成立の前提となる国民意思の点については、前記のとおり、国会において全会一致で可決され、成立したもので、その後の改正も同様であり、銃規制の動向等(第四、四、2、3)も考慮すると、原告主張のように、暴対法がただちに憲法二一条、一四条に反するとはいえないというべきである。

5  職業選択の自由(憲法二二条)との関連についてみても、暴力団員であることが職業であるとは言い難い。原告の主張するところは、個人の活動が職業選択において自由であるべきとの趣旨と解されるが、他の人権との調和の観点からの制約は、免れないところである上、前記のとおり、法三条は、指定の対象となる暴力団の要件を定める規定にすぎず、同条は、直接、暴力団員の行為を規制するものではなく、指定暴力団員の生計維持のための資金獲得行為を否定するものではない。また、暴対法は、当該指定暴力団員の一切の経済的活動を禁止、規制するものではなく、法九条により具体的に規制される行為態様を検討しても、暴力団の威力を示した上での金品等の要求行為であって、それ自体が一般社会的に禁止されているところであるから、通常の社会生活を営む上での支障があるとはいえず、これらの行為の禁止が営業の自由を侵害する結果になるとは考え難く、これらの点の原告の違憲の主張は、採用することができない。

6  財産権の保障(憲法二九条)との関連についてみても、法一五条、一八、一九条は、外周や外部から見通すことができる状態にしてその内部に付近の住民らに不安を覚えさせるおそれがある表示又は一定の行為をあげているところ、これらはやや抽象的ではあるが、住民の生活の平穏が害され、害される恐れがある場合や住民らに不安を覚えさせたり、事務所内面談を強要したりする場合に限るとされ、事務所周辺におけるこれと一体となった利用による行為を規制するものであって、その規制には合理的理由があると認められる(これらの撤去等の問題が立法化の一因であったことは、第四、一、1のとおりである。)。

さらに、財産権制限の他の法条をみても、建物区分所有法は、五一条、五八条において、区分所有者の共同の利益に反する行為をした者らに対し、単にその行為の停止のみならず、専有部分の使用停止も請求できることとしているのであって、右暴対法による制限がこれらの制限と均衡を失するものとは言い難く、これらの点の原告の違憲の主張も、採用することができない。

7  法定の手続保障(憲法三一条)の規定の実効性が保たれているか否かについて検討するに、原告は、法三条本文(暴力団要件)の違憲性を主張するほか、法三条と二条二号は「おそれが大きい」「おそれ」などの抽象的かつ不明確な概念をもって人権を制約しており、公安委員会の恣意的解釈を許すおそれがあるとの主張、あるいは法三条の指定要件の構造に関する主張、さらには、警察法は、公安委員会の機能等を確定する基本法であり、この公安委員会の設置目的と権能の範囲は、同法により羈束されているのに、これを超えて公安委員会の権限が定められたものであり、比例原則に反し、違憲であるなどの主張をする。

(一) しかしながら、暴力団との用語自体が定着して使用されているのが現状であって(第四、一、1)、その活動の大小が当然にあり得るところであり、右文言等も不明確とはただちには言い難い。法二条の暴力的不法行為とは、施行規則一条で定められているが、刑法に規定する全部の罪のほか、暴力行為等処罰に関する法律等の二八の法律に規定する罪が挙げられており、その特定に不備があるとはいえない。白地刑罰法規とは、法律が科する刑罰の種類・程度だけを規定し、その犯罪構成要件の具体的内容を他の法令あるいは行政処分に譲っている刑罰法規であるところ、法は、命令の発出及び範囲を定めており(一一条、一五条、一七条、一九条)、さらに、法に基づく命令は、第四、一、3のとおり、暴力団員による暴力的要求行為等を防止するためのものであるから、刑罰により命令を担保することには合理性があり、法定刑の程度も特段に重いものではなく、罪刑の均衡を失するものではないものというべきである。

(二) 指定暴力団の指定の手続をみても、比率要件をもって犯罪経歴保有者の保有の比率要件を充足することなどの厳格な手続きを求めており、しかもその比率自体は、他の団体が指定されることのないように調査された数自体、三条指定がより厳しくなる方向での計算がされている(第四、一、3、(三))のであるから、他の団体指定の点もその具体的なおそれがあるとはいえない。

なお、施行令は、幹部比率等にも適用されるべき集団比率を定めているのであって、幹部比率のみを特に定めることを要する趣旨の原告の主張は、採用の限りではない。

(三) 法は、社会的存在としての暴力団が、親分を頂点とした前近代的な家父長制を擬制した関係により構成され、いわゆる親分子分の上下関係は、絶対的なものとされていることを前提に、法三条三号の団体要件を定めたのであり、「運営を支配する地位」という概念もこれを前提に解釈されるべきものであって、階層要件が明確ではないとはいえない。

(四) 公安委員会の組織構造の点についての主張も採用の限りではない。

(五) さらに、憲法三一条の適正手続きの保障は、当事者に対する意見聴取によっても過誤、遺漏を防止することが可能であるところ、この点についても法五条、六条は、聴聞の手続、国家公安委員会の確認を定めているのであるから、暴対法の指定制度等が恣意的な解釈のもとに濫用されることになるとの原告の違憲の主張は、いずれも理由がないというべきである。

8  その余の原告の主張について

原告は、他に法九条、一五条、一六条、一八条、一九条、二〇条、二二条一項、三四条、三五条について、憲法各条項に違反するとの主張をするが、その憲法上の保障が無制限のものではなく、公共の福祉の観点からの制限が許されることは、1ないし7のとおりであって、本件各証拠を総合しても、原告の主張は、いずれも採用することができない。

二  立法過程における違憲性と運用違憲の主張(第三、一、3)について

1  原告は、立法過程における審議不十分、附帯決議の不遵守等を主張するほか、法施行前に警察庁が原告を指定予定団体との広報をしたことなどの違憲性を主張するが、附帯決議そのものは法的効力を有せず、右決議も今後の審議についての要望であり、その不遵守が指定処分そのものに直接の効果を及ぼすことは考えられない上、内閣の法案提出、国会の審議・法案の議決は、それぞれに裁量が認められるのであり、国会の国勢調査権の行使についても国会の自律権に任されるところである。そして、暴対法の成立過程をみても、確かに、第一二〇回国会における同法の審議、可決は、短期のうちにされ、衆参両院の附帯決議においても「警察庁の法案提出に関して、立法府の審議権の保障に特段の配慮を払うこと」(別紙一の九項)が決議されているが、両院では暴対法案そのものは全会一致で可決されている(第四、一、2)上、さらにその後の法改正も特段の異論もなく決議されている(第四、四、3)のであるから、国会の審議が不十分であったとは言い難く、この点の原告の主張は、採用することができない。

2  また、警察庁が事前に原告らを指定予定団体としての発表をしたこと(第二、二、5)が本件指定処分の効力に影響を与えるとはいえないから、この点の原告の主張も理由がないというべきである。

第六  関係法令の制定過程、運用の違法性、広報行為の違法性の主張(第三、三、四)について

一  関係法令制定・運用の違法性の有無

1  原告は、衆参両議院の各地方行政委員会における附帯決議では、暴対法施行にともなう政令等の制定においては、国会での意見聴取などの的確な措置を講ずるほか、運用にあたっても、広く国民の意見を反映させる措置を講ずる等の要請がなされていたのに、全くなされなかったから、違法無効であるとの主張をするが、前記のとおり、各附帯決議には法的効力はなく、その違反は、政令又は国家公安委員会規則の瑕疵とはならず、本件指定処分の違法事由となるものではない。

2  原告は、政令の制定過程につき、資料の不明確性等及び委任の逸脱等の主張をするが、政令に対して法律が委任しうる範囲は、具体的、個別的に限定されるべきであり、このためには、法律に「目的」と受任者のよるべき「基準」が定められていることが必要であり、基準の適切性の判断は、委任された権限の大小、詳細な基準を法律で定めることの実効性、受任者の裁量の濫用に対する保護の有無、委任事項の内容などが斟酌されて判断されるべきこととなるはずのものである。この点を暴対法についてみるに、法一条で目的が定められ、法三条二号本文の政令比率を定めるについては、括弧書きで確率を示しての基準が定められており、その具体的な確率を定めるための必要資料等は、国会ではなく、内閣が有しているということができるから、内閣がより適しているというべく、この点の委任が適切でないとはいえない。

したがって、この点に関する原告の主張も採用することができない。

二  広報行為の違法性の主張について

警察庁の指定予定暴力団との発表が附帯決議に反するとしても違法とまではいえないことは、前記のとおりである。原告の主張は、予断をもって原告への対処をしたとの趣旨の主張とも解されるが、立法の過程において、その施行後の運用等の議論がされることは、避けられないところであり、この点の瑕疵が本件指定処分の効力を左右するとはいえず、原告の主張は採用できない。

第七  指定手続の違法性の有無の主張(第三、五)について

一  聴聞手続の送達の違法性の有無

1  原告は、聴聞通知書の送達について、原告を代表する総長が身柄拘束中であることを知りながら、敢えて前記天野らへの送達の手続をしたのであって、これらの送達の瑕疵は、本件指定処分を無効とするものであるとの主張をする。

しかし、原告代表者の溝下が勾留中であったことは原告の自認するところであり、原告への聴聞通知書送達の経緯は、第四、三のとおりであるところ、法五条二項は、「代表する者」のほか、「これに代わるべき者」に対する通知を認めており、同条項の趣旨は、むしろ被通知者のためのものであって、合理的ということができ、溝下に代わる者(なお、溝下は原告総長の地位にあり、単に勾留中にすぎず、原告の代表者が欠けているとはいえないが、当該団体である原告の運営に関与できない状況にあったということができる。)に対して通知することは、右法条の趣旨にむしろ適うものといわねばならない。また、総長代行は、総長に次ぐ地位にあることは明らかであり、乙三七、四六と古谷証言によれば、原告において、総長代行は、総長不在の場合にそれに代わって意思決定をする三役の一人であり、現に天野は、溝下が服役中に原告を代表して行動していたことが認められる。そして、聴聞規則一四条一項、五項、四一条一項、施行規則三九条、四一条一項、二項一号によれば、送達を受けるべき者の事務所で、その使用人らに当該通知書を交付することによる通知の手続きもできると解されるところ、原告への聴聞通知等の経緯は、第四、三、2のとおりであって、平成四年四月六日には、天野への出会送達が予定されたものの、結局は、本件聴聞通知書の書類の交付はされず、受領確認書を得ることもなかったのであるから、送達がなされたと認めるのは相当ではないものの、天野は、自ら代行として行動していた上、同月一〇日以降には受領する旨を述べており、同日には、被告係官らは原告の事務所に赴き、かつ原告の理事でもある伊崎に対し、聴聞通知書の交付をし、受領確認書も徴したのであるから、これにより聴聞通知の手続きは了したということができる。

したがって、溝下への送達をせずに、聴聞の機会を失わせたとの原告の主張は、失当というほかはない。

3  なお、原告は、各附帯決議二項をもとに聴聞通知書送達の違法を主張するが、同決議が法的効力を有しないことは、前記判断のとおりであるから、この点の原告の主張も採用することができない。

二  聴聞通知書の内容と聴聞終結処分について

1  原告は、聴聞通知書の「指定をしようとする理由」欄の記載は、抽象的にすぎ、法五条二項に違反し、暴力団であることの事実は全く記載がない点で法三条本文に違反すると主張するが、法五条二項が聴聞通知書を送達するのは、聴聞において法三条各号の要件該当性の有無について指定対象者に意見及び証拠提出の準備をさせ、攻撃防御の機会をあらしめようとした趣旨であるから、本件聴聞通知書の理由の付記(別紙二の「指定をした理由」の記載と同一である。)は、法の趣旨に即して十分な記載がなされているということができ、原告のこの点の主張は理由がない。

2  また、原告は、右聴聞通知書の内容の違法性を前提とした上で、その後の手続きと聴聞終結処分について、聴聞規則一九条一項違反等及び憲法九九条、附帯決議四項違反等の主張をするが、前記のとおり聴聞通知書の送達と理由の記載には何ら違法はなく、被告において、原告らの暴対法の違憲性についての意見陳述を制限したと認めるべき証拠もないから、原告の主張は理由がない。

三  指定理由が違法であるとの点について

原告は、指定通知事項には、法七条三項及び施行規則六条五号により「指定をした理由」が含まれるが、指定通知書には、その記載がなかったから、右通知は法三条等に違反することとなるとの主張をするが、本件指定通知書には「指定をした理由」が記載されている(その内容は、別紙二のとおりである。)のであり、同通知書記載の理由の程度で行政庁たる被告の判断の慎重性、合理性を担保するとともに、処分の相手方である原告に事後の争訟等の便宜を与えようとする法の趣旨に合致すると認められるから、この点の原告の主張は、採用することができない。

第八  本件指定処分の指定要件の充足の有無について(第三、六に対する判断)

一  証明資料、比率算定の基準日及び幹部の認定と算定方法について

原告は、本件指定処分の際には、法三条の要件に該当すると認める旨を証する資料や幹部認定の方法等についての客観的な資料が存在しなかった旨の主張をするが、乙一八及び証人古谷の証言によれば、いわゆる挨拶状等の書状、本部事務所に掲示している名札等の記載内容、当該構成員らの聴取結果、検察庁に対する前科照会に基づいて指定したことが認められ、後記のとおり、原告は、法三条の要件を満たしている暴力団と認められるから、この点の原告の主張は採用することができない。

また、比率算定にはある程度の日数を要し、時差が生じるのは避けられないところであり、法三条二号の比率算定の基準日を聴聞期日の公示日前三〇日以内とした施行規則三条一項は、合理的なものということができ、基準日を指定公示日と解さなくてはならない必然性もないから、この点の原告の主張も採用することができない。

二  原告が暴力団要件(法二条二項)を充足するか否かについて

1  法二条二号は「暴力団」を「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。」と規定しているとおり、この規定の解釈に際しては、法一条の目的を念頭に置かなければならないというべきところ、暴対法は、いわゆる社会的存在としての暴力団の構成員である暴力団員が暴力的要求行為等を行い、また、右のような暴力団の対立抗争等により市民生活の安全と平穏が害される危険性が生じるようになったことから制定されたものであるから、同条二号の「暴力団」の解釈に際しても、この社会的存在としての暴力団の実態を考慮すべきものということができる。そして、社会的存在としての暴力団は、親子盃、兄弟盃等の盃を交わす儀式や代紋バッジ等を交付することによって擬制的血縁関係を成立させるところにその特徴があるのであるから、法二条二号の「団体」も右のような擬制的血縁関係を基礎にすることを要するというべきである。

これを原告についてみるに、第四、二、1ないし4のとおり、原告への加入は、親子盃、兄弟盃という盃を交わす儀式を行うことによって親子、兄弟という擬制的血縁関係が生じたとするのを原則とし、ただ、原告の方針に反しない限り、各傘下組織の長に委ねられることとされ、加入と同時に原告の代紋入りのバッジが傘下組織の長から交付されることで擬制的血縁関係を生じたとされており、さらに、原告の活動の実態は、北九州市一円及び長崎、山口両県等に組長を名乗った責任者を置き、他の暴力団を排除し、構成員はその「シマ」を中心に代紋入りのバッジを誇示したり、団体名を相手に告げるなどの方法によって原告の威力を利用した風俗営業者等に対するみかじめ料の要求等の不法な資金獲得行為をし、これらの要求にあたり、拒絶した相手に暴力を加え、あるいはその営業活動を妨害するなどしている上、内部では、このような行為をしたことを理由として構成員らに対して何らの処分をしていないのであるから、原告は、連鎖することにより一つの団体を構成しており「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」にあたるというのが相当である。

2  原告は、原告は創始以来任侠団体であり、法二条二号の「暴力団」ではなく、また、分家すれば、本家の構成員ではなくなるのに、被告はこれらを含めて構成員の認定をしており、事実誤認があると主張するが、単にその一面のみを強調しているにすぎないというべきであり、採用することができない。

三  原告の法三条要件の充足について

1  原告の構成、活動等は、第四、二、1、2のとおりであって、原告は暴力団としての威力を有しており、原告の構成員が右威力を示して資金獲得行為を行うことを容認していると認められるから、法三条一号の実質目的要件を充足する団体ということができる。

2  また、原告は、平成四年三月一〇日現在、福岡、長崎、山口の三県にわたり構成員約六〇〇人を有する団体であり、原告においては、団体を代表する総長の溝下のほか、団体運営を支配する名誉総裁・総長代行・若頭・最高顧問・常任相談役各一人・相談役(八人)ら合計二二人がいるほか、若頭補佐一一人・直若二八人・専務理事二一人・その他常任理事等の地位の階層があり、総長以下専務理事までの犯罪経歴保有者の人数は、四〇人であることが認められるところ(第四、二、1、2、三、4)、この構成からすると、総長以下専務理事までが、法上の「幹部」にあたり、原告の幹部構成員八三名のうち犯罪経歴保有者の人数四〇人の占める割合は48.19パーセントとなるのであって、これは施行令一条に定める集団の人数が八〇人から八四人の範囲にある場合についての政令の定める犯罪経歴保有者比率8.76パーセントをはるかに超えるものであるから、法三条二号の要件を充足する団体であるということができる。なお、構成員を六〇二名とし、保有者数を四〇名としても、その割合は6.66パーセントとなるところ、六〇〇人から六四九人までの政令比率は4.17パーセントであるから、原告がこの比率要件を充足することは明らかというべきである。

3  さらに、原告をおいては、団体を代表する総長の溝下を筆頭として、団体運営を支配する名誉総裁等の幹部合計二二人がいるほか、若頭補佐等のその他の地位の階層があり、組織の運営方針等、団体としての意思を決定する事項については、通常執行部において協議し、その結果を総長に上申して判断を仰ぎ、総長が最終決定し、原告からの排除も、直若以上の地位にある者については、総長の直接の裁断、常任理事等については、執行部の審議を経て総長の裁断によることとされ、幹事以下については、各傘下組織の長の判断によって行われるものの、事前に本部に報告することが必要であって、原告は、その代表者らの統制の下に階層的に構成された団体ということができる(なお、この点は、第四、四、1のとおり、原告構成員に対し、離脱妨害中止の命令が被告から発せられていることからも明らかというべきである。)から、原告は、法三条三号の要件も充足する団体というべきである。

4  原告は、法三条三号は社団性を前提としているが、原告は社団ではなく、また同号は、重畳的階層構造の団体を規定しているところ、親子の上下関係にすぎない原告のような任侠団体は該当しないと主張するが、原告が任侠団体といえないことは、前記認定、判断のとおりであり、また、同条指定の対象となり得る団体については、社団性の有無は問題とならないと解され、また、原告が同号の要件を満たしていることは前述のとおりである。

また、原告は、比率要件に関し、その前提となる「集団」等が明らかではなく、幹部比率による要件を選択しながら、全員比率に対応する政令比率を適用した旨の主張、二項分布の計算方法の不当性、認定資料の不正確等に関しての主張をし、確かに、法三条二号の「集団」の特定や比率算定の方法等は、必ずしも一義的とはいえない点がある。しかし、施行令一条は、法三条二号を受けて定められたのであるから、全員比率のみならず幹部比率にも対応するというべきものであり、もともと、この比率自体、確率の計算であって、二項分布によるか他の同様の確率計算を採用するかは、政令に任されているところと解され、その算定方法が著しく不合理と認めるべき証拠もないから、これらの点の原告の主張は、いずれも採用することができないものである。

四  指定処分自体が違法性を有するとの主張について

原告は、法三条二号の違憲無効を前提としての本件指定処分の無効を主張するが、法三条二号が違憲無効でないことは前記のとおりであるから、この点の原告の主張は失当である。

第九  結論

以上のとおりであって、本件指定処分は、被告の裁量の範囲内にあるものとしてされた適法な処分であり、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官牧弘二 裁判官横山秀憲 裁判官小島法夫)

別紙一

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律案に対する附帯決議

衆議院

政府は、本法施行に当たり、次の諸点に留意し、その実効に遺憾なきを期すべきである。

一 暴力団の不法、不当な行為による国民の権利、自由への侵害はいまや放置することができない実情にあることにかんがみ、関係機関の協力を緊密にし、暴力団の壊滅のための総合的かつ有効な対策を確立することに努めるとともに、本法の的確な運用を含めて暴力団の不当行為及び犯罪の摘発、取締りを強化し、その解体と団員の更生を推進すること。

二 本法の運用に当たっては、国民の人権の侵害、事業者の営業の自由を損ねないよう特段の配慮を払うとともに、職権の濫用のないよう十分留意すること。

三 本法に基づく質問権、立入権等については慎重に運用すること。

四 法の精神に基づき、公開による聴聞の原則を遵守し、例外規定の行使については慎重な検討を行うこと。

五 本法が、事業者に対して責務と負担を求めるものではないこと及び事業者に対する援助等は事業者の要望に基づき、任意に行われるものであることに留意すること。

六 都道府県暴力追放運動推進センター等の設置と運営については、国民や事業者の誤解を招くことのないよう十分な配慮を払うこと。

七 警察官の網紀粛正に努めるとともに、警察官、警察事務職員をはじめとする地方公務員の待遇改善を推進すること。

八 本法施行に伴う政令、国家公安委員会規則及び運用については、国会のしかるべき場において意見を聴くなど、的確な措置を講ずるほか、本法の運用に当たっては、広く国民の意見を反映させるため必要な措置を講ずること。

九 警察庁は、法案の提出に際してはその時期等について改善を図るとともに、立法府の審議権の保証に特段の配慮を払うこと。

右決議する。

参議院

政府は、本法施行に当たり、次の諸点に留意し、その実効に遺憾なきを期すべきである。

一、暴力団の不法、不当な行為による国民の権利、自由への侵害はいまや放置することができない実情にあることにかんがみ、関係機関の協力を緊密にし、暴力団の壊滅のための総合的かつ有効な対策を確立することに努めるとともに、本法の的確な運用を含めて暴力団の犯罪及び不当行為の摘発、取締りを強化し、その解体と団員の更生を推進すること。

二、本法の適用にあたっては、国民の人権を侵害し、事業者の営業の自由を損なわないよう特段の配慮を払うとともに、いやしくも職権が濫用されることのないよう十分留意すること。

三、本法に基づく質問権、立入権等については慎重に運用すること。

四、法の精神に基づき、公開による聴聞の原則を遵守し、例外規定の行使に当たっては慎重な検討を行うこと。

五、本法が、事業者に対して責務と負担を求めるものでないこと及び事業者に対する公安委員会の援助等措置は事業者の申出に基づき、任意に行われるものであることに留意すること。

六、都道府県暴力追放運動推進センター等の設置と運営については、国民や事業者の誤解を招くことのないよう十分な配慮を払うこと。

七、警察官の網紀粛正に努めるとともに、警察官、警察事務職員等の待遇改善を推進すること。

八、本法に基づく政令及び国家公安委員会規則並びにその運用については、本委員会に設置される小委員会において意見を聴くなどの措置を講ずるほか、本法の運用に当たっては、広く国民の意見を反映させるため必要な措置を講ずること。

九、警察庁は、法案の提出に当たっては、立法府の審議権を損なうことのないよう、その時期等について改善を図ること。

右決議する。

別紙二

二代目工藤連合草野一家「指定通知書」中の別紙「指定をした理由」

1 次のア及びイの理由から、標記の暴力団が、その威力をその構成員に利用させ、又はその威力をその構成員が利用することを容認していると認められるので、標記の暴力団が法第三条第一号に該当すると認めること。

なお、標記の暴力団が聴聞において主張した意見には、標記の暴力団の実質上の目的の認定を左右するものがないと認める。

ア 標記の暴力団においては、その多数の構成員が、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、標記の暴力団に所属している旨を告げ、その他標記の暴力団に所属していることを利用して恐喝、威力業務妨害等に当る行為等を行っていること。

イ 標記の暴力団は、その構成員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のため資金を得、又は得ようとすることに関連してけん銃等の発砲事件を繰り返すなどの不法行為を行っていること。

2 標記の暴力団の専務理事以上の地位にある幹部である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令第一条の表八〇人から八四人までの項の比率の欄に定める8.76パーセントを超えるものであることから、標記の暴力団が法第三条第二号に該当すると認めること。

3 代表者たる総長の下に、総長代行、若頭等運営を支配する地位その他の地位の階層で構成されている団体であることから、標記の暴力団が法第三条第三号に該当すると認められること。

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